『コミュニティ・オーガニゼーション ―理論・原則と実際-』

著 者:マレー・G・ロス(訳)岡村重夫

発行年:1968

発行元:全国社会福祉協議会

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目次(一部)

  • 第1部:コミュニティ・オーガニゼーションの本質
    • 第1章 共同社会活動の概念について
    • 第2章 コミュニティ・オーガニゼーションの意味
    • 第3章 コミュニティ・オーガニゼーションの基本的仮定
  • 第2部:コミュニティ・オーガニゼーションの方法に影響を与える諸要素
    • 第4章 共同社会生活に関する理論的仮説
    • 第5章 計画立案について
  • 第3部:コミュニティ・オーガニゼーションの原則
    • 第6章 組織化に関する諸原則
    • 第7章 組織化に関する諸原則(続き)
    • 第8章 専門ワーカーの役割
  • 第4部:原則と実際
    • 第9章 原則と実際の統合

文献内容紹介

この本は、Murray G Ross,B. W. Lappin(1967)『Community Organization: Theory, Principles, and Practice』Harper and Row.の翻訳書である(この文献は2版の位置づけであり、初版は、Murray G Ross(1955)『Community organization: theory and principles』Harper and Row.となる。)

Rossは、コミュニティ・オーガニゼーション(以下、CO)の概念整理、定義を行った人物としてわが国のソーシャルワークのテキスト等にも、その紹介がなされる。本書には、Rossが示した当該COの定義とその詳細がまとめられている。Rossの関心は、当時COと称される実践の中に一定の共通点はありつつも多様な実践があり、それが理論の一貫性を欠くことを招いているという点にあったことが本書の冒頭に記されている。Rossは本書にまとめているCOの活動や原則は、検証がされていないものだとしながらも、それらを専門的理解を深めるものとして位置づけまとめている。Rossの定義は、COを包括的なものと捉えている点にその特徴があるが、それらは後にCOの概念整理を行ったRothmanの定義にも引き継がれていると言える。Ross自身は、この検証されていない原則などを提示することには消極的であったことが本書においても触れられているが、事実として本書はその後のCOに関する研究の一つの端緒として重要な文献となっている。以下では、RossによるCOの定義、それらとソーシャルワークとの関わりを中心にその概略を紹介する。

RossによるCOの定義

まずRossはCOを次のように定義している。

「共同社会がみずから、その必要性と目標を発見し、それらに順位をつけて分類する。そしてそれを達成する確信と意志を開発し、必要な社会資源を内部外部に求めて、実際行動を起こす。このようにして共同社会が団結協力して、実行する態度を養い育てる過程」(p42)

本書では、繰り返しこのCOが「過程」であることが強調されるが、これについてRossは、次のように説明をしている。「“過程”とは、意識的でも無意識的でも、自主的でも、また強制されても、ともかく共同社会における問題(すなわち目標)を発見することにはじまり、それらの解決、すなわち目標を達成するまでの運動を意味する。」(p42)Rossはこのように、共同社会自らがその問題発見と解決をする、その「過程」をCOの基軸としている。その為、この過程の開始や育成を支援する専門ワーカーの必要は認めつつも、その「過程」自体は、専門ワーカーの関与が無くても、または当事者(住民)がその過程の本質を知らなかったとしても展開することがあると説明する。この点において、当該の過程がどのような意義を持つのかということが重要となる。Rossはこれについて、上記定義の後半部分にそれが示されるとしている。すなわちRossは「過程が進展するにつれて、共同社会の構成員は互に理解し、受けいれ、協力しあうようになるであろうこと、そして、共通問題を発見して対処する過程おいては、下部集団とその指導者たちが、他の下部集団と協力して、共同の活動を望むようになり、そのような共同作業に起こりがちな争いや困難を克服する技術を向上するだろう」(p51)と説明し、それを「絶対不可欠の要素」と位置づけている。COを通じて何かしらの施設等や計画を具体化することよりも、当事者が共通問題を発見して、それらを共同・協力を通じて処理できる能力を獲得するようにすることの重要性を強調している。

ソーシャルワークとしてのCO

COの過程を通じて、そこに関わる当事者の能力獲得に重きを置くRossは、その一連の取り組みが、ソーシャルワークにおけるケースワークやグループ・ワークと共通の基盤を持つものだとして説明する。Rossは、それらソーシャルワーク3つの方法に違いがあることを認めつつも、全てのソーシャルワーカーは、地域共同社会または福祉共同社会を構成する立場にあるという点において、COの過程の本質を理解し、その中で建設的な役割を果たすことの必要性等を説いている。以下5点は、Rossが示すCOを専門としないワーカーが、COに関与する際の期待となる(p72-75:一部加筆)。

  1. コミュニティ・オーガニゼーションの目標を理解すること
  2. これら(コミュニティ・オーガニゼーション)の目標に共感して、支持すること
  3. 共同社会の仕組のなかで、行動を客観的に観察する能力
  4. 自分を、コミュニティ・オーガニゼーション過程に巧みに結びつけること
  5. 内容に関して、効果的な貢献ができること(共同社会の持つ意見・力を引き出す等)

Rossが本書の初版を出版した同時代では、ソーシャルワークの3方法を統合化する動きが見られていた時代でもあるが、RossもCOをソーシャルワークの一方法として捉え、それが広く実践・展開される必要性を捉えていたことが伺える。専門分化しがちなソーシャルワーカーが、COにおける「絶対不可欠の要素」を具体化していくに際して、どのようなことに留意をすべきかが、上記5つの期待には端的に示されている。

本書では以上の内容の他に、COが協力をするということを強調しすぎているのではないか、専門ワーカーが自らの目的のためにCOを用いているのではないかといった批判に対するRossの応答や、COの実践事例を示しながら、COの理論および実践の総体をまとめている。


文責:小山 宰